犬の歯周病について

口腔・顔面の病気辞典
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歯周病は “歯の病気” ではなく “歯周組織の病気”

口の中には沢山の細菌がいます。

この細菌が歯の表面に付着して塊を作ったものを“歯垢(プラーク)”と呼ばれます。

これが原因となり歯茎(歯肉)に炎症を起こした状態を“歯肉炎”と呼びます。さらに状況が悪化して歯槽骨に炎症を起こした状態を“歯周炎”と呼びます。

そして、この2つの状況をまとめて“歯周病”と呼びます。

歯周病が進行すると歯を支えている歯槽骨が破壊されることで歯の根っこに沿って歯周ポケットと言われる病的な溝ができてしまいます。歯周ポケット内の細菌がさらに奥で炎症を起こし歯槽骨を破壊する事で歯はグラグラになり、最終的に抜け落ちてしまいます。

歯周ポケットの中に膿が溜まった状態を歯槽膿漏と言います。(中程度~重度歯周炎)

また、歯垢が固まって石の様に硬くなったものを“歯石”と呼びます。歯石は表面がザラザラしているため歯垢が付着しやすくなったり、歯磨きをしたい部分が磨けなかったり、歯周病を悪化させます。

歯周炎の進行度の説明 

※一番左(健康な歯肉)のイラスト以外は全て歯周病です

歯肉 健康な状態
犬 歯肉炎
犬 歯肉炎 軽度
歯周炎 中程度
歯周炎 重度

歯周病発症の原因は細菌バランス

口の中は腸管と並んで最も多種多様な常在細菌が存在し、適度なバランスを取っています。

しかし、歯磨きをしないと細菌は過度に増えてしまい歯周組織(歯肉、歯槽骨など)に炎症を起こすリスクが高くなります。

その中でも歯周病の発症と進行に関連する細菌を“歯周病関連細菌”もしくは“歯周病菌”と呼びます。

この細菌の量をコントロールすることが歯周病予防のポイントとなります。

また、人の口腔内は弱酸性ですが、犬の口腔内はアルカリ性に傾いています。虫歯にはなりにくいですが、歯周病菌が繁殖しやすい環境となっています。さらにアルカリ環境下では歯周病菌が繁殖しやすいだけでなく歯石の形成が早い事が知られています。

よく見られる症状

歯周病になると下記のような症状が出ます
・口臭がある
・歯がグラついている
・おもちゃに血が付く/歯ブラシに血が付く
・おもちゃで遊ばなくなった
・ガムなど硬いものを咬まなくなった
・ご飯を食べるのに時間がかかる/ご飯が食べにくそう
・くしゃみをしている
・顔が腫れている

実際には上記の様な症状が出た頃には歯周病が重度に進行している事が多いです。抜歯を含めた治療が必要と考えられます。

口臭は他にも原因がある場合があります。犬の口臭については詳しくはこちら

重症化すると何が起こる?

歯周病菌が歯の根を支える骨を破壊する事によって、様々な問題を引き起こします。

特に上顎の犬歯の歯周病が重度に進行すると鼻の中まで細菌が入り込みます。この状態を“口腔鼻腔ろう”と呼びます。最初はくしゃみだけですが、慢性化し鼻の中に膿が溜まってくると夜も寝るのが辛くなってしまいます。

また、根っこの方まで細菌が入り込み顔が腫れ、膿が皮膚を貫通して穴が開きます。(外歯ろう

下顎の歯だと骨折まで引き起こしてしまう事があります。(下顎骨骨折

犬は人のように噛んでご飯を食べず、飲み込んでいる事が多いので、歯が痛くてもご飯を食べる事ができます。そのため、ご飯を食べているから問題がないという事はありませんので注意が必要です。

犬の歯周病 口腔鼻腔ろう
犬の歯周病 顔腫れ
犬の歯周病 下顎骨骨折

上記の問題以外に肺炎や腎臓・心臓の細菌感染症を引き起こす事も報告されています。

治療

【人では当たり前ですが…】

まずはポケットの深さを1本ずつ測定し(歯周検査)、歯科レントゲン検査を行い歯の状態を正確に把握した上で治療内容が決まります。

犬の場合は恐怖心を抱かないように、安全にちゃんとした検査と治療を行う為に全身麻酔が必要です

①クリーニング(スケーリング・ルートプレーニング)

 歯の表面の歯石を取る事も大切ですがそれ以上に大事なのは歯周ポケットの中の歯垢と歯石を除去する事です。見た目では見えない歯茎と歯の間にできたポケット内の歯周病菌をちゃんと取り除けないと歯周病はどんどん進行していきます。

②中程度以上の歯周病の歯は必要に応じて歯周外科治療か抜歯

 歯周病が進行して歯茎が下がって歯根が露出していたり、ポケットが深いと治療後も汚れが溜まりやすい状況になります。その為、年齢が若く、歯磨きができるのであれば治療後にきれいな口腔内の状態を維持しやすいように歯周外科治療を検討し、高齢で歯磨きが全くできないような歯周病リスクが高いのであれば抜歯を検討していきます。重度の歯周病になってしまった歯は人と同様抜歯が最善の治療となります。

歯周外科治療についてはこちら

③ポリッシング(歯面研磨)

 歯石を取るだけだと歯の表面に細かい傷が残ってしまい、その後も歯の表面に歯垢や歯石が溜まりやすくなってしまうため、研磨剤というものを使用して歯の表面をきれいに整えていく作業となります。

当院の犬の歯周病症例はこちら

歯周病治療は早めに受ける事が大切

犬の歯周病 歯肉炎と歯周炎の違い

上記の写真の様に歯石のたまりが軽度で歯肉炎の状況で治療ができれば、元通りの歯の状況になりますが、一度歯茎が下がったり歯根が露出してしまうと治療後も歯垢が溜まりやすい状況になるため、歯周病の早期発見、早期治療を心がけましょう。

歯周病の予防

予防方法は人と同様、毎日のオーラルケアがとても重要となります。

歯茎に炎症がなく口臭もない子やパピーでは積極的な歯磨きを頑張りましょう。歯周病が認められたら診察を先に受けるようにしましょう。

一度歯石が付くと歯磨きで除去する事はできません。

歯磨きの仕方は下の一覧でチェックしましょう。

・パピーの頃から毎日の歯磨きを習慣をつけるようにする
歯磨きのやり方(仰向け) 歯磨きのやり方(お座り)

・お口を触られるのが苦手な子は歯磨きシートから練習する
歯磨きシートの使い方

・歯ブラシはその子にあった大きさのものを選ぶ
歯ブラシの選び方

・歯磨き粉や歯磨きジェルも一緒に使うと効果的!
歯磨きジェルの選び方 歯磨きジェルの使い方

年齢が若い頃はおもちゃをよく噛んで歯の表面の汚れが落ちやすかったり、唾液の分泌を促したり、お水もよく飲んで細菌が溜まりにくい環境となっています。しかし高齢になってくると寝る時間も増えて歯を使う事も減るため歯周病になりやすく、重症化しやすくなるため注意が必要です。

それ以外にも歯周病の原因になる乳歯遺残や歯並びの異常、不正咬合を治療をする事で歯周病の予防に繋がります。

乳歯遺残の症例はこちら

気になる症状があれば早めに診察を受ける様にしましょう💡

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