犬のメラノーマ(悪性黒色腫)外科手術不適応症例

症例紹介・犬
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11歳 オス ミックス犬

主訴

歯磨きをしている時に口の中にできた腫瘍に気付いて来院されました。

所見

通常の診察ではちゃんと見れない為、鎮静剤を使用して口腔内をチェックしました。右下顎第一後臼歯(奥歯)の歯茎に盛り上がる腫瘍ができていました。

腫瘍のほとんどの部分で赤く盛り上がり辺縁は少し黒い部分が認められ、柔らかそうな見た目をしていました。

犬 メラノーマ 
口腔内腫瘍
検査

〇細胞診検査→メラノーマが強く疑われる所見あり

〇胸部レントゲン検査→肺に複数の結節性病変あり

〇CT検査→悪性腫瘍の肺転移

犬 メラノーマ CT検査

〇病理検査→メラノーマ(悪性黒色腫)

治療

腫瘍自体はそれほど大きくないもののすでに肺転移があることからステージ4の最終段階となります。

一般的な余命は3か月以下とされています。

この状況では根治は不可能であり、治療の目的は緩和治療となります。

緩和治療は主に腫瘍の進行をなるべく遅くする事、疼痛緩和を図りなるべく苦痛のない生活を長く過ごさせてあげる事が目的となります。その為、外科手術は不適応となります。

放射線治療、抗がん剤治療、免疫療法、サプリメントなど提案させていただきました。

それぞれ治療のメリットデメリットがある中で飼い主さまは抗がん剤治療を選択されました。

選択した抗がん剤はカルボプラチンというものになります。こちらは3週間に1回の点滴となります。

抗がん剤投与後数日は少し食欲が落ちたもののそれ以外に気になる点はなく、何事もない様子で生活する日が続きました。

犬 メラノーマ
初診から1ヵ月半

抗がん剤の投与と検診を続けるにつれ、肺転移の病巣は大きく明瞭になりました。新たな病巣が増え、口腔内腫瘍も徐々に大きくなり、腫瘍の進行が認められました。

ただ、その間はご飯はよく食べ元気に走り回って遊ぶ事はできていました。

姑息的外科治療

初回診察から約4ヶ月半後(計6回抗がん剤の投与をした頃)口腔内のメラノーマが大きくなったころによって、下記の症状が認められ生活の質が低下してしまいました。

・ご飯が食べづらい

・飲水が自分では難しい

・口が痛そうでくちゃくちゃと気にしている

口腔内腫瘍の場合、腫瘍の増大に伴い物理的に食事をとる障害になる事が多くあります。

飼い主さまと相談し、全身麻酔下で腫瘍の一部を切除し容積を減らす手術を行いました。

犬 メラノーマ 減容積
現容積治療前
犬 減容積治療後
減容積治療後

治療から3日後、自ら飲水が可能でペースト状のごはんが食べられるようになりました。

1回でも一般状態の低下が認められたこともあり、飼い主様と相談し今後は抗がん剤をやめて、痛みの管理として消炎鎮痛剤の内服をメインで経過を見ていく事なりました。

その後メラノーマは自壊もなくご飯も食べられていましたが、肺転移が進行し咳が見られるようになりました。

最期

初回診察から7か月少し期間が過ぎました。

1週間ほど前からお水は飲めるもののご飯が食べれなくなってしまいました。

4日ほど前から立ち上がる事はできるものの移動が困難となり排尿時には鳴いて知らせる度にトイレに連れていくような状況となりました。

痛み止めのお薬は最期まで飲ませる事はできていました。

最期は静かに息を引き取ったという事です。

この症例では一般的に報告されている余命よりも長く生きた事になります。この結果を振り返ると、抗がん剤治療で腫瘍の進行がゆっくりになった、途中大きくなった腫瘍を減容積して再度ご飯を食べやすくなった、元々ご飯を食べる意欲が強く生命力が高かった、などが考えられました。

緩和治療のメリットは最期まで無理なく治療をする事でゆっくり愛犬と向き合う時間が生まれ、飼い主さまの心の準備ができる事だと考えています。

初期のメラノーマであれば外科手術で根治が望めますが、末期の場合は緩和治療を選択する事になります。

緩和治療にも複数の治療が存在する為、獣医師と飼い主の十分なインフォームが重要と考えています。

もし、ご心配な事がありましたらお気軽にご相談ください。

メラノーマについては詳しい解説はこちら

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