虫歯って何?
人のむし歯と同様、主にミュータンス菌(Streptococcus mutans;ストレプトコッカス・ミュータンス) と言われる虫歯菌が歯の表面に付着して糖を栄養にして、酸を産生する事で歯を溶かし穴が開いた状態の事を言います。
歯を溶かしていく過程で口腔内に含まれる鉄分(硫化鉄)などが沈着すると虫歯の表面は黒く見えるようになります。
また、虫歯菌は「グリコカリックス」というネバネバ物質を合成し歯の表面に付着しますが、なかなか平らな面には付着をする事ができない為、主に噛み合わせのある咬合面か歯の表面にできた深いくぼみ、歯と歯の間以外は虫歯になる事はありません。
虫歯は上手に歯磨きをしている飼い主以外、初期に発見されることは珍しく、上の写真の様にある程度歯の破壊が進んだ状態で歯科治療の際に偶然見つかるケースが多いです。
写真のような咬合面と言われる臼状の面がある奥歯での発生が多く認められます。(好発部位)
犬も虫歯になるの?
虫歯の症例が犬では稀に見られます。
猫では論文上、虫歯の報告はなく虫歯にならないと考えられています。
犬において”虫歯”になりにくい理由は以下のように考えられます。
・元々虫歯菌を保有していない。
・歯が尖った形状をしている為、歯の表面に虫歯菌が付着しにくい
・唾液に含まれるアミラーゼが非常に少なく、炭水化物を糖に分解する事が難しい為、虫歯菌が酸を産生するリスクが低い
・犬の口の中は弱アルカリ性(pH8~9)のため歯が溶けにくい環境になっている
しかし、なりづらいとはいえ虫歯になる事もあるので気を付けましょう。
見た目と症状
・歯が欠けている、穴が開いている
・歯に茶色や黒い変色した部分がある
・歯磨きのときに引っかかる感じがある
このような状況では注意しましょう。
人の虫歯では進行度に合わせて5段階で評価します。
C0(初期虫歯) | 歯の表面に白い斑点 |
C1(エナメル質に限局) | エナメル質が少し削れ黒ずむことがある |
C2(象牙質まで進行) | 歯の表面に穴が開いて黒ずんでくる |
C3(歯髄に達した虫歯) | 穴も大きくなり、感染は歯髄(神経)に到達するため痛みがでてくる |
C4(歯の根っこまで到達) | 歯の大部分が崩壊し、歯の根っこの方にも感染が広がっている状況 |
C0、C1の状況では見つける事はほぼ不可能です。
C2以降は歯の表面に穴が開いて黒ずんでくるため、歯を見る習慣があればこの時点で気づく事が可能です。ただ、虫歯は基本的に奥歯にしか起こらないため、明るい状態で口を開けて歯を見ないと気付く事は難しいです。
治療方法
虫歯の進行状況に応じて治療が変わります。
比較的表面の病変で済んでいるC1、C2の状況では虫歯に罹患した部分を削った後、必要に応じて神経の保護をし、表面をコンポジットレジンというエナメル質に変わる材料で修復します。
神経に到達してしまったC3、C4の状況では上記の治療に加え感染した神経の治療も必要になります。ただ、破壊が重度のC4の状況では抜歯を検討する必要があります。
犬が虫歯にならないようにするためには?
虫歯の人間との接触
生まれたばかりの子犬の口腔内にいないはずの虫歯菌は虫歯に罹患している個体の唾液を通じて感染します。
可能性として考えられるのは母犬もしくは飼い主です。
虫歯がある飼い主が咀嚼してふやかしたものを犬に与えると、移ります。
愛犬にキスをする行為や先に人間がかじったものを食べさせる行為は控えましょう。
逆に、犬の口の中は虫歯菌が繁殖しにくいので、犬から人に虫歯菌を移す可能性は低いと考えられます。
人間の食べ物を与えない
虫歯菌は糖を利用して、酸を作り出し歯を溶かしてしまいます。
人間の唾液に含まれる消化酵素アミラーゼは、でんぷんと反応して糖へ分解します。
しかし犬の唾液には、アミラーゼがほとんど含まれていないので摂取したでんぷんが口の中で糖に変換されることはありません。
では虫歯菌に必要な糖はどこから来るのか?
・人間が食べる糖類を多く含む食べ物をあげてしまう
・果物などを習慣的に与えている
・ペット用のおやつでも甘い味付けがされている
与えているものが人間の食べ物じゃないからといって虫歯にならないとは限りません。
虫歯にならないためにも糖分や塩分はなるべく控える食事にしましょう。
歯磨き習慣をつける
歯周病と同様で虫歯にも歯磨きは有効な対策です。
毎日の習慣になるよう歯磨きをしましょう。
歯磨きをした時に口腔内の観察も一緒に行いましょう。
他の口腔内疾患の発見につながります💡
歯磨きの詳しいやり方はこちらを参考にしてください。
・歯の表面に黒または茶色い部分がある
・歯に穴が開いている、削れている部分がある
・表面がザラザラしていて歯ブラシが引っかかる
もし、上記のような気になる様子が認められたらお気軽にご相談ください。