犬の下顎骨骨折|ソファからの落下で両側骨折した症例と治療法

骨折

「ソファから飛び降りた瞬間、急に口元を痛がり始めた」——小型犬を飼う飼い主さまから、このようなご相談をいただくことがあります。小型犬はソファやベッドからの落下事故で下顎骨骨折を起こすことがあり、特にヨークシャーテリアのような超小型犬では骨が細いため骨折リスクが高まります。本記事では、実際に当院で治療した両側下顎骨骨折の症例をもとに、診断から治療・経過までをご紹介します。

落下事故で両側下顎骨骨折が起きた症例

今回ご紹介するのは、7歳6か月のヨークシャーテリア(未去勢雄・体重2.6kg)です。自宅のソファから飛び降りた際に着地に失敗し、急に口元を痛そうにしていたためかかりつけ病院を受診されました。そちらで顎の骨折を指摘され、当院にご紹介いただきました。

来院時、外見から下顎が左右にズレており、両側下顎骨骨折が強く疑われる状態でした。

犬の両側下顎骨骨折:来院時の外貌所見
来院時の外貌。下顎が左右にズレているのが確認できます。

鎮静・レントゲン検査で骨折の状態を詳しく確認しました

鎮静下で顎を触診したところ、かなりの動揺(ぐらつき)が確認されました。以下の動画でその状態をご確認いただけます。

歯科レントゲンにて、左右両側の下顎骨骨折を確認しました。

犬の両側下顎骨骨折レントゲン:左側
歯科レントゲン:左側の骨折部位
犬の両側下顎骨骨折レントゲン:右側
歯科レントゲン:右側の骨折部位

骨折治療の前に歯周病の処置を行いました

今回の症例では、骨折治療に先立ち、重度の歯周病に罹患していた歯の抜歯を行いました。歯周病で大きくぐらついている歯を残したまま固定しても、十分な固定力が得られないためです。

犬の両側下顎骨骨折:歯周病歯の抜歯前
重度歯周病に罹患した歯を確認
犬の両側下顎骨骨折:歯周病歯の抜歯後
歯周病の歯を抜歯した後の状態

一方、動揺していない歯は骨折固定の「固定源」として、できる限り温存しました。

犬の両側下顎骨骨折:固定源となる歯を温存した状態(クリックでモザイク解除)
固定源となる歯を温存した状態。クリックするとモザイクが外れます。

骨内ワイヤーとスプリントレジンで顎を固定しました

骨折端をワイヤーで整復・固定する方法を、骨内ワイヤー固定法といいます。まず骨折端を正しい位置に並べ(並置)、骨内にワイヤーを通して固定しました。

犬の下顎骨骨折:骨内ワイヤー固定後のレントゲン(左側)
骨内ワイヤー固定後:左側
犬の下顎骨骨折:骨内ワイヤー固定後のレントゲン(右側)
骨内ワイヤー固定後:右側

続いて、歯に取り付けたスプリントレジン(樹脂製の副木)で補強固定を行いました。左右のレジンは正中で連結し、顎全体を安定させています。

犬の下顎骨骨折:スプリントレジン装着後の口腔内写真
スプリントレジン装着後の口腔内
犬の下顎骨骨折:スプリントレジン固定の模式図
スプリントレジンによる固定の状態
犬の下顎骨骨折:スプリントレジン装着後の外観
正中連結後の外観
犬の下顎骨骨折:スプリントレジン固定の追加写真
固定後の状態(別アングル)
犬の下顎骨骨折:スプリントレジン固定のレントゲン
固定後のレントゲン所見

固定力が弱かった左側は、骨折端の吻側1か所・尾側2か所を3-0エチロン縫合糸でさらに補強しました。

術後2か月半で骨が完全に癒合しました

術後2週間は、鼻に設置したカテーテル(栄養チューブ)から流動食と水を与えていただきました。自宅ではエリザベスカラーを装着して安静を保ちました。

その後、骨折部位の安定を確認しながらドライフードを1粒ずつ食べさせ、少しずつ口を使った食事へと移行しました。

手術から約2か月半後、全身麻酔下でスプリントレジンと骨内ワイヤーを抜去しました。

犬の下顎骨骨折:骨内ワイヤー抜去後の口腔内写真(左側)
ワイヤー抜去後:左側
犬の下顎骨骨折:骨内ワイヤー抜去後の口腔内写真(右側)
ワイヤー抜去後:右側

骨内ワイヤーの一部は下顎骨内に入り込んでいたため、抜去せずそのまま残しています。生体に害のない素材であり、経過観察で問題ありません。

犬の下顎骨骨折:抜去後の外観」 class=
抜去後の外観
犬の下顎骨骨折:治癒後のレントゲン(左側)
治癒確認レントゲン:左側(骨癒合が確認できます)
犬の下顎骨骨折:治癒後のレントゲン(右側)
治癒確認レントゲン:右側(骨癒合が確認できます)

骨折固定のために温存していた歯周病の歯は、この時点ですべて抜歯しました。

犬の両側下顎骨骨折:治療終了後の口腔内写真
治療終了時の口腔内。咬合も正常に回復しています。

両側下顎骨は完全に癒合し、治療終了となりました。顎のズレもなく咬合(かみ合わせ)も正常に戻り、外見も良好です。ご飯を問題なく食べている様子に、飼い主さまも大変喜んでいらっしゃいました。

小型犬の落下事故で「口元を気にする」サインは要注意です

下顎骨骨折は、症状が現れてからできるだけ早く整復・固定することが回復のカギです。以下のサインが見られたら、早めにご相談ください。

  • 落下や衝突の直後から口元を気にする・痛がる様子がある
  • 口を閉じにくそうにしている・下顎がズレて見える
  • 食事をうまく食べられなくなった
  • よだれが急に増えた・出血がある

特に体重2〜3kg以下の超小型犬は顎の骨が細く、わずかな衝撃でも骨折が起きることがあります。「元気はあるけれど口を気にしている」という場合も、ご遠慮なくご相談ください。

当院での対応

荻窪ツイン動物病院は、犬と猫の歯科・口腔外科を専門とする動物病院です。下顎骨骨折の整復・固定手術では、骨内ワイヤー固定とスプリントレジンを組み合わせた術式に対応しています。歯科レントゲンによる精密診断と、歯周病の同時処置まで一貫して行います。「顎がズレている」「落下後に口元を痛がっている」などのサインがあれば、お早めにご相談ください。

気になる症状がございましたら、お電話またはWeb予約フォームからお気軽にご相談ください。

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