16歳 ミックス猫 去勢雄
主訴
口腔内の出血が見られ他院にて全身麻酔下で電気メスを使用し止血したものの、再度出血が止まらなくなり当院に来院されました。
所見
下顎骨が左側に変位しており、左上顎骨断端が露出している状況でした。

左上顎骨は腫脹しており下顎骨の扁平上皮癌が考えられます。
飼い主様にご相談した結果、全身麻酔下で切除することとなりました。
治療
・腫瘍は下顎骨を中心に尾側は咬筋まで浸潤している
・切歯部(前歯)の下顎骨はレントゲンで確認できないほど骨破壊が進行している
・腫瘍はかなり皮膚に近いところまで浸潤している
・左下顎リンパ節が腫れている
全身麻酔下で口腔内を検査したところ上記の症状が確認できました。
左下顎リンパ節は2個切除し、腫瘍はマージンを十分に確保し下顎骨ごと切除しました。

舌筋まで切除したため、今後自力採食は難しいと判断し胃瘻チューブを設置しました。
術中は疼痛管理としてフェンタニルを使用し手術翌日の朝まで点滴しています。
病理検査の結果は扁平上皮癌と診断されました。

経過(分子標的薬の使用)
手術から4日後の検診では口腔内の術創は問題なく胃瘻を使用しご飯を食べているとのことです。
手術から1週間後にパラディア(分子標的薬)を開始しました。
パラディアは、犬や猫のがん治療に使われる分子標的薬です。 がん細胞を攻撃して縮小する効果があります。副作用として骨髄抑制、食欲不振、嘔吐、下痢、腎毒性、肝酵素の上昇、低アルブミン血症、高血圧など見られる場合があるので経過には注意が必要です。
腫瘍切除から約1か月後の検査でも腫瘍の再発は見られず経過良好です。

パラディアの大きな副作用はなく胃瘻でご飯を食べ、チュールを自ら舐められるほどになりました。
経過(緩和治療)
術後2か月で舌に潰瘍が発見されました。
舌に転移していた扁平上皮癌が表面に浸潤してきたと思われます。
CT検査をしたところ、舌、脳、左眼窩への転移が疑われました。(赤丸の部分)

この状況ですと外科治療は不適応になるので、今後は疼痛管理をし緩和治療に切り替えていくとになります。
その後痛みの管理も問題なくできており、体重の減少なども見られませんでしたが、術後3か月で再度口からの出血がみられました。
止血剤の内服薬を処方しましたが、貧血は進んでしまうと考えます。
自宅でも診察時にも肩で息をするような様子が見られたため、今後ひどくなるようなら自宅での酸素室を提案しています。
手術後約4か月で寿命を全うしました。
口腔内扁平上皮癌に対する様々な治療を併用しても、1年生存率は10%以下。
生存期間中央値は3ヵ月もしくはそれ以下であったと報告されています。
腫瘍が小さいうちなら完全に取り切る事、つまり完治も望めます。
若齢で発生する可能性もありますので、口の中をチェックする習慣を作りましょう。
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