3歳10か月 MIX犬18Kg 去勢雄
主訴
約3か月前に歯ぐきが赤く腫れてきたため、かかりつけの動物病院に来院。
そこでCT検査、病理検査を実施されました。
その際の病理検査結果は、歯肉過形成という診断でした。
慢性歯肉炎として、抗生剤や消炎剤内服、ステロイド軟膏を処方され使用していました。
しかし、改善はみられず、徐々に悪化した事から当院に来院されました。
所見
当院でも上顎の歯肉が腫れていることを確認しました。
腫れ方から歯周病の範疇(はんちゅう)を超えており、歯と接していない部分まで腫れている事から腫瘍を疑う必要があると考えられました。
検査
病理検査結果は絶対に正しいとは限りません。
採取する場所、組織の大きさ、病理診断医の見解の違い、など様々な問題があります。
今回の様に臨床所見と病理検査結果が異なる場合は、複数回検査を行う必要があります。
改めて組織の採材したところ、病理検査で高分化型線維肉腫と診断されました。
治療
高分化型線維肉腫は口腔内にできる腫瘍の中でも特に局所の浸潤が非常に強く、かなり広範囲な切除を行わない限り、手術をしても再発する可能性の高い腫瘍として知られています。
治療の第一選択は外科手術になります。
しかし、ここまで進行した状況では鼻を含めた上顎の半分程度切除する必要がありかなり侵襲の強い手術が必要になります。
飼い主と相談した結果、例え手術をしても生活の質が低下する事や再発のリスクがある事から痛みのコントロールを中心とした緩和治療を希望されました。
経過
以降、腫瘍の増大を抑制できる可能性のある消炎鎮痛剤と胃薬を1日1回で内服しながら、途中で痛みが強くなった時には更にリリカ(鎮痛補助薬)を追加処方しました。
腫瘍は徐々に大きくりましたが、自らご飯を食べ良好な日常生活を送る事がでました。
しかし、約1年5か月後には腫瘍が大きくなりすぎた結果、頭をあげる事が困難になったため自らお水をちゃんと飲めず、ご飯を食べるのが難しくなってしまいました。さらに鼻を圧迫し、いびきが聞こえるなど呼吸がしにくい様子が見られました。
水分をとれなくなった為、自宅で皮下補液をしていただき、食事のサポートをしていました。
徐々に衰弱し、最期は眠るように亡くなりました。
腫瘍が発生してから長い間一緒に過ごすことができ、最期までしっかりサポートできた事から満足のいく治療ができたと飼い主さまは喜ばれていました。
この様に手術が困難な症例でも諦めなければ疼痛緩和治療が奏功する事があります。
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