猫の扁平上皮癌(骨中心性)|症状・手術・術後9か月の経過を獣医師が解説

口腔内腫瘍

「最近うちの猫の食欲が落ちてきた」「口の中に何かできている気がする」「扁平上皮癌と言われたけど手術できるの?」——猫の口腔内腫瘍について、こうしたご不安の声をよくいただきます。猫の口腔内腫瘍の大部分は扁平上皮癌が占め、早期発見と適切な治療が予後を左右します。本記事では、当院で実際に手術を行った症例をもとに、診断から術後9か月の経過までをご紹介します。

扁平上皮癌は猫の口腔内腫瘍で最も多い悪性腫瘍です

猫の口腔内にできる腫瘍の中で、扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)は最も頻度が高い悪性腫瘍です。口腔内腫瘍全体の約70〜80%を占めるという報告があります(Stebbins et al., 1989; Liptak & Withrow, 2012)。

特に今回ご紹介する骨中心性扁平上皮癌は、骨から発生するタイプです。局所への浸潤は強いものの、リンパ節などへの遠隔転移率は比較的低いとされています。そのため、外科手術で完全切除できれば良好な予後が期待できると報告されています。

今回の症例:14歳のミックス猫の経過

受診までの経緯

今回の患者さんは、ミックス猫・14歳1か月・去勢雄です。半年前から食事量が減り、体重も減少していました。かかりつけ病院で抗生剤と消炎剤を処方され、一時的に食欲は改善したものの、確定診断がつかないまま経過観察となっていました。今後への不安から、当院にご相談いただきました。

口腔内の所見

口を開けると、左上顎に腫瘍が明らかに盛り上がっていました。また、左目が細く開きにくい状態で、口腔内の腫瘍が眼窩(がんか)方向まで浸潤している可能性が疑われました。

猫の骨中心性扁平上皮癌・左上顎の腫瘍所見(術前)
左上顎に盛り上がった腫瘍(術前所見)
猫の骨中心性扁平上皮癌・左眼球の変位(術前)
左目の開きが悪く、眼球への浸潤が疑われた

2つの検査で確定診断に至りました

以下の2つの検査を実施しました。

  • 組織検査(病理組織検査):腫瘍の確定診断と治療方針の判断のため → 結果:扁平上皮癌
  • CT検査:腫瘍の浸潤範囲と手術適応の確認のため → 下記の所見
猫の骨中心性扁平上皮癌・CT画像所見
CT画像:病変が左眼球を背側に圧排し、鼻腔へも伸展している

CT検査の主な所見

  • 病変の大きさ:約3.8×2.5×2.9cm
  • 左上犬歯の尾側以後に存在し、骨融解・骨増生を認める。骨由来の腫瘍性病変を疑う
  • 病変により左眼球が背側に圧排・変位。一部、鼻腔への伸展も確認

以上の結果から、骨中心性扁平上皮癌と確定診断しました。このタイプは局所浸潤が強い一方、リンパ節などへの転移率は比較的低く、完全切除により良好な予後が期待できます。飼い主さまと十分に話し合い、左眼の摘出を含む手術を行う方針となりました。

手術:左眼摘出を含む広範囲切除を実施しました

手術内容

  • 皮膚:鼻の脇から腫瘍周囲約5mmのマージンをとって切除
  • 眼球:腫瘍が接していたため、左眼球を一緒に摘出
  • 口蓋(こうがい):最深部で正中まで切除
  • 左下顎リンパ節:CT検査で腫脹が確認されたため切除
  • 経食道カテーテルを設置(術後の栄養管理のため)
猫の扁平上皮癌・手術中の画像(モザイクあり)
手術中の画像(クリックするとモザイクが外れます)
猫の扁平上皮癌・手術直後の縫合状態
手術直後の状態。術創の離開なく経過
猫の扁平上皮癌・病理検査結果(完全切除確認)
病理検査結果:切除断端は陰性(完全切除を確認)

病理検査の結果、切除断端は陰性で、腫瘍の完全切除が確認されました。

術後9か月:再発・転移なく経過しています

手術後の経過をまとめます。

  • 術後:自力での採食が困難なため、経食道カテーテルで栄養管理を継続
  • 術創の離開はなく、経過は良好
  • 時間の経過とともに、自らお水を飲み、ドライフードも少量ずつ食べられるようになった
  • 術後2か月半後:経食道カテーテルが外れて体重が減少したため、胃瘻(いろう)チューブを設置
  • 現在:ご飯は自力でも食べるが量が少ないため、胃瘻チューブからも補給。お水は5〜10分かけて自力で飲める
  • 手術から9か月経過した現在、再発・転移はなく良好な経過を維持しています

自宅で気をつけていただきたい3つのサイン

口腔内腫瘍は進行してから気づくケースが少なくありません。日常のケアの中で、以下のサインに早めに気づくことが重要です。

  • 食欲の変化:以前より食べる量が減った、食べにくそうにしている
  • 体重の減少:1〜2週間で目に見えて痩せてきた
  • 口腔内の変化:口臭が強くなった、よだれが増えた、口の中に膨らみがある

これらのサインが続く場合は、早めに動物病院にご相談ください。

こんなサインがあれば早めにご相談ください

以下に当てはまる場合は、経過観察ではなく受診をお勧めします。

  • 1か月以上、食欲低下・体重減少が続いている
  • 口の中に盛り上がりや腫れが見られる
  • 目が開きにくい、顔の形が変わった気がする
  • 抗生剤を飲んでも症状が繰り返す

「かかりつけで診てもらっているけど改善しない」という場合も、セカンドオピニオンとしてご相談いただけます。

当院での対応

荻窪ツイン動物病院は、犬と猫の歯科・口腔外科を専門とする動物病院です。口腔内腫瘍の診断には組織検査・CT検査を組み合わせた精密な評価を行い、手術適応の判断から術後管理まで一貫して対応しています。骨中心性扁平上皮癌のような広範囲切除が必要な症例にも、当院の歯科チームが丁寧に向き合います。「うちの子の口の中が気になる」と感じたら、お気軽にご相談ください。

気になる症状がございましたら、お電話または Web 予約フォームからお気軽にご相談ください。

参考文献

  • Stebbins KE, Morse CC, Goldschmidt MH. Feline oral neoplasia: a ten-year survey. Veterinary Pathology. 1989;26(2):121-128.
  • Liptak JM, Withrow SJ. Cancer of the gastrointestinal tract: oral tumors. In: Withrow SJ, Vail DM, Page RL, eds. Withrow and MacEwen’s Small Animal Clinical Oncology. 5th ed. Saunders; 2012:381-398.
  • WSAVA Global Dental Guidelines(世界小動物獣医師会・歯科ガイドライン): https://wsava.org/global-guidelines/global-dental-guidelines/
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