「フィラリア予防はいつから始めればいい?」「フィラリア予防薬はいつまで飲ませるの?」「犬 フィラリア 12月も必要なの?蚊はもういないのに…」——このようなご質問を、この時期によくいただきます。
実は、12月の最後の1回を飲み忘れると、1年間の予防努力が無駄になってしまう可能性があります。その理由は、フィラリア予防薬の仕組みにあります。
この記事では、予防期間の根拠となる薬の作用の仕組み、投薬前の血液検査が必要な理由、そして「室内飼いだから大丈夫」「マンションだから蚊は来ない」という誤解についても丁寧にお伝えします。
フィラリア予防薬は「感染を防ぐ薬」ではなく「幼虫を駆除する薬」です

フィラリア予防薬の仕組みを正しく知ることが、投薬期間を理解する第一歩です。
フィラリア(犬糸状虫)は、蚊が媒介する寄生虫です。感染した蚊に刺されると、幼虫(L3期)が皮膚から体内へ入り込みます。その後、幼虫は約1〜2か月かけて皮下組織から筋肉へと移行しながら成長し、やがて血管に入って心臓や肺動脈に到達します。成虫になると心臓や肺動脈に住み着き、放置すると心不全・肺高血圧などを引き起こします。
フィラリア予防薬は、この「蚊に刺された後に体内で成長中の幼虫(L3〜L4期)」をターゲットに駆除する薬です。感染そのものを防ぐ薬ではありません。
つまり、「蚊に刺された約1か月後」に飲むことで、その期間の幼虫を駆除できるという仕組みです。この「1か月のタイムラグ」が、予防期間を考えるうえで最も大切なポイントです。
「蚊が出た月の翌月」から「蚊がいなくなった月の翌月」まで飲む必要があります
薬の仕組みを踏まえると、投薬期間の考え方は次のようになります。
- 投薬開始:蚊が活動し始めた月の翌月から
- 投薬終了:蚊がいなくなった月の翌月まで
関東平野部を例にとると、一般的に蚊の活動期間は4〜11月頃とされています。そのため、多くの地域で「5月〜12月」が目安とされてきました。ただし近年は気候が暖かくなってきているため、当院では4月に検査を行い、4月〜12月(9ヶ月間)の月1回投与をおすすめしています。
ただし近年は気温上昇の影響で蚊の活動期間が延びる傾向があり、以前より早い開始・遅い終了を推奨する獣医師も増えています。お住まいの地域や年によって変わるため、担当獣医師に確認することをお勧めします。
12月の投薬を飛ばすと「11月感染の幼虫」がそのまま成虫になります
ここが最も見落とされがちなポイントです。体内タイムラインで確認してみましょう。
- 10月:蚊に刺されて幼虫が体内に侵入 → 11月の薬で駆除される
- 11月:蚊に刺されて幼虫が体内に侵入 → 12月の薬で駆除される
- 11月に感染した幼虫を、12月の薬を飲み忘れると……翌年春頃に血管内で成虫へと成長し、心臓・肺動脈に到達してしまう可能性があります
「もう蚊を見かけないから大丈夫」と感じる時期でも、11月に刺されて体内に潜んでいる幼虫を駆除するために、12月の投与が不可欠なのです。
1年間きちんと飲ませてきたとしても、最後の1回が抜けることで、その努力が帳消しになりかねません。
室内飼い・高層マンション暮らしでも予防は必要です
「うちは室内飼いだから蚊に刺されない」「マンションの高層階だから安心」とお考えの飼い主さまから、よくこのようなご相談をいただきます。
しかし、蚊はエレベーターや階段、網戸の隙間から高層階にも侵入することが知られています。また、散歩の際に屋外で刺されるケースも十分あります。
「完全室内飼育だから絶対に刺されない」という状況はほとんどなく、室内犬・マンション飼育の犬でもフィラリア感染の報告があります。
室内だからといって予防をやめてしまうことは、獣医学的には推奨されていません。
「毎年の血液検査」が必要な理由は安全確認のためです

「毎年ちゃんと飲ませているのに、なぜフィラリア検査が必要なの?」というご質問もよくいただきます。
毎年の抗原検査(血液検査)が必要な理由は、万が一フィラリアに感染している状態で予防薬を投与すると、大量の幼虫が一度に駆除されて血管に詰まり、重篤なアレルギー反応や最悪の場合には心停止につながる危険があるからです。
感染が疑われる主なケースには以下があります。
- 昨シーズン、12月の最終投与を忘れていた
- 途中で1回飲み忘れがあった
- 薬をこっそり吐き出していた(気づかないことも多いです)
- 昨年末から今年初めにかけて予防薬の処方が途切れた
こうした「飲めていなかった可能性」は意外に多く、毎年の血液検査によって安全を確かめてから予防薬を処方するのが標準的な流れです。当院でも、予防薬の処方前には毎年の抗原検査をお勧めしています。
自宅でできること:予防を確実に続けるための3つのポイント

フィラリア予防で飼い主さまが自宅でできる取り組みをご紹介します。
- 投薬カレンダーをつくる:毎月同じ日(例:毎月1日)に設定し、スマートフォンのリマインダーや手帳に記録する習慣が有効です。特に「12月の最後の1回」をあらかじめ予定に入れておきましょう
- 飲んだ後の様子を確認する:投薬後にペットがすぐに吐いていないか、こっそり口の横に隠していないかを確認してください。疑わしい場合は担当獣医師にご相談ください
- 予防薬の種類を生活スタイルに合わせる:当院ではチュアブルタイプ(口から飲む)とスポットオンタイプ(皮膚に垂らす)をご用意しています。錠剤が苦手な子・おやつが好きな子など、その子に合わせて選べますので、担当獣医師にご相談ください
これらのサインがあれば早めに受診をご検討ください
フィラリア症が進行すると以下のような症状が現れることがあります。
- 咳が続く(乾いた咳)
- 運動後に息切れしやすくなった
- お腹が膨らんできた(腹水)
- 元気や食欲が以前より低下している
これらの症状は他の疾患でも見られるため、自己判断は難しいことが多いです。気になる症状がある場合は、担当獣医師にご相談ください。
また、以下の場合も早めに受診をお勧めします。
- 今シーズンの12月の投薬が抜けてしまった
- 途中で飲み忘れの月があった
- 昨年から今年にかけて予防薬をまったく投与していない
猫もフィラリアに感染します——予防が唯一の対策です
フィラリアは犬だけの病気ではありません。猫もフィラリアに感染します。
猫のフィラリア症は犬とは異なる病態をとり、肺の血管に重篤な炎症を引き起こすことがあります(猫フィラリア関連呼吸器疾患:HARD)。さらに、猫では犬のような有効な成虫駆除薬が現時点では確立されていないため、予防が唯一の対策とされています。
室内飼育の猫でも感染報告があり、フィラリア予防薬(猫用スポットオンタイプ等)による予防をお勧めします。猫のフィラリア予防については担当獣医師にご相談ください。
フィラリア感染が判明した場合の治療について
万が一フィラリアへの感染が確認された場合、治療は予防と比べてはるかに体への負担が大きくなります。
成虫駆除薬(メラルソミン等)を使った治療では、死滅したフィラリアの虫体が血管に詰まるリスクがあり、治療期間中は激しい運動を禁止して安静を保つことが必要になります。重症例では外科的に虫体を摘出する手術が必要になることもあります。
「予防」にかけるコストと手間は、「治療」に比べてはるかに小さなものです。毎年の定期検査と確実な投薬が、愛犬を守る最善の方法です。
最後に
フィラリア予防は「なんとなく飲ませるもの」から「なぜ飲ませるか・いつまで飲ませるか」を理解した上でのケアに変えることで、抜けのない予防が実現できます。
当院では、春の予防シーズン前の抗原検査(血液検査)から予防薬の処方・種類のご相談まで、担当獣医師が一緒に考えます。「今年の12月の投薬、大丈夫だったかな?」「うちの子に合う予防薬を選びたい」など、小さなご不安もお気軽にご相談ください。
気になることがございましたら、お電話またはWeb予約フォームからご連絡ください。
参考文献
- American Heartworm Society (AHS). Current Canine Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Management of Heartworm (Dirofilaria immitis) Infection in Dogs. 2022. https://www.heartwormsociety.org/
- American Heartworm Society (AHS). Current Feline Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Management of Heartworm (Dirofilaria immitis) Infection in Cats. 2022. https://www.heartwormsociety.org/
- WSAVA(世界小動物獣医師会)Global Veterinary Community Guidelines. https://wsava.org/global-guidelines/
- Atkins CE, et al. “Heartworm disease in cats: Updated guidelines.” Veterinary Parasitology, 2020.



