猫の口内炎について【歯科・口腔外科専門獣医師が解説】

口腔・顔面の病気辞典
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猫の口内炎とは?

猫の口内炎は現在、「歯肉口内炎」や「尾側口内炎」(Feline Gingivostomatisis)と定義される猫特有の病気であり、QOLを著しく低下させる代表的な疾患です。

猫の口内炎

治りにくい疾患であることから「難治性口内炎」と呼ばれることもあります。

口内炎の特徴は歯周病で起こる歯ぐきの炎症に留まらず、飛び火のように歯周病と関係のない部位に炎症が広がります。

特に口の奥の粘膜が左右対称に炎症を引き起こし、赤く腫れて潰瘍が生じます。

疫学的特徴

論文の報告をまとめると…

原因は未だに解明されておらず、猫カリシウイルス感染症などのウイルスと歯垢中の細菌などの関与が指摘されている程度にしかわかっていない。

平均年齢は7歳。(本症例を認めた年齢であり発症年齢はもっと若い可能性が高い)

全頭中5%程度の発症率である。

歯周病と併発する事が多いが、必ずしも歯垢や歯石の付着量や歯周病の程度と相関しない

品種や性別による差はない

ドライフードよりウエットフードを主食としている猫に発症が多い

単独飼育より多頭飼育での発症が多い。(多頭飼育のストレスによる免疫力の低下やウイルス感染症の蔓延リスクが考えられる)

口内炎の原因として考えられる微生物

ウイルス感染症

特に関連が高いとされているのが猫カリシウイルス感染症です。

カリシウイルスは上部気道感染や口腔粘膜の潰瘍病変を示すウイルスとして知られており、感染初期に多くの猫で歯肉口内炎になると言われておりその感染率は20~100%と報告されています。

その他、歯肉口内炎の猫の70~90%の割合でカリシウイルスの感染が認められたとされる報告もあります。

また、猫ヘルペスウイルス感染症や猫伝染性腹膜炎、猫汎白血球減少症などのウイルス感染症もとの関与も報告されています。

細菌感染症

この疾患は歯垢・歯石除去でも症状の軽減が認められ、全臼歯抜歯や全顎抜歯においてはかなり高い治療効果が得られる事から歯周病菌のPorphromonas(ポルフィロモナス)属やTannerella forsythia(タンネレラ・フォーサイシア)も発症に関係しているとされています。その他、Pasteurella multocida(パスツレラ・ムルトシダ)やクラミジアやマイコプラズマとの関連も報告されています。

口内炎の症状

症状が軽い初期では、口臭くらいしか症状は認められません。しかし、重度になると下記のような症状がみられます。

・前足で口をひっかく
・頭を傾けて食べる
・ご飯を食べるのにちゅうちょする
・食欲不振(特にドライフードを嫌がる)
・口をクチャクチャする
・よだれで口周りが汚れる
・口臭が強い
・体重減少
・採食時やあくびをする時に痛みで途中で止めたり悲鳴をあげる
・グルーミングをしなくなり毛艶が悪くなる
・口から出血をする

口内炎の治療

現在、口内炎の根治的治療として全臼歯抜歯もしくは全顎抜歯(全ての歯抜歯)が推奨されています。

これは口内炎の症例に対して、歯垢や歯石を除去すれば炎症が軽減する事が多いです。その後に歯磨きをさせてくれる猫は極めて少なく、ましてや口内炎に罹患して口腔内の痛みを訴えている状態で歯磨きをする事はほぼ不可能なため、歯垢が付着しないように抜歯をして病気を治しましょう!という話しです。

内科治療を行う場合は下記の状況に限られます。

外科治療を行うまでの間、口腔内の炎症を軽減し疼痛を緩和する

炎症を取り除き手術時の出血量を減らし、抜歯しやすく、術後感染症のリスクを減らす

外科治療後に歯肉口内炎の炎症をコントロールする目的

内科治療として使用する薬剤

〇抗生剤

〇ステロイド剤

〇シクロスポリン(免疫抑制剤)

〇ネコインターフェロン

〇鎮痛剤

〇サプリメント(イヌインターフェロンα、ラクトフェリン、オメガ脂肪酸)

詳細は省略させていただきますが、多用されるステロイド剤の注意点を記載します。

・ステロイド剤は炎症を抑える効果が高く、即効性があり多用される傾向にある。さらに、錠剤をのめない子では3~4週間に1回の注射もあり簡便さもあります。しかし、糖尿病やうっ血性心不全のリスクがあり、根本的な治療にはなりません。

外科的治療の反応率

口内炎の完治を目指す場合には外科的治療(全臼歯抜歯、全顎抜歯)が必要です。診断され次第なるべく早期に実施する事が望ましいとされています。

Hennetらの報告では30症例に対し全臼歯抜歯24例、全顎抜歯2例、部分抜歯4例行った。結果処置11か月~2年後の検診で、症状や炎症もなく投薬不必要の完治症例が18例。炎症は残るが症状はなく投薬の必要がない明らかな改善症例が6例。症状は軽度に改善し炎症があり投薬の必要がある改善症例が4例、改善無しが2例。よって外科的治療後に症状が無く投薬の必要もない症例は24/30で有効率は80%であった。

Jenningsらは全臼歯抜歯群と全顎抜歯群の間では術後経過の差はなく、術後に投薬の必要はなく症状が改善した有効率は67.4%と報告した。

当院のデータでは外科的治療の全臼歯抜歯の有効率は80%程度。全臼歯抜歯後も犬歯の歯茎から出血したり口腔後部の炎症が強く続く症例で最終的に全部の歯を抜歯した症例でさらに80%程度の有効率が得られ、年齢が若く犬歯を使っておもちゃで遊ぶ子、猫草を前歯でちぎって食べる子に対してはまず、全臼歯抜歯を選択し、日頃からお口を使って生活していない子では全顎抜歯を勧める事が多いです。

また、内科治療を長期的に続けた経過が長い子では外科手術の反応が悪く、治療後の回復が芳しくないため、なるべく早期の外科手術を検討すべきと思われます。

その他、間葉系細胞療法やレーザー治療(炭酸ガスレーザー)なども検討されていますが、やはり治療成績は外科手術が高く、現在では治療の第一選択は外科手術とされています。

猫の口内炎 治療前
口内炎治療前 
猫の口内炎 治療後
口内炎治療後 全抜歯後3週間

口内炎にならないようにするには?

現在、原因が不明なため明確な予防方法は確立されていません。

以下の事に注意をしましょう💡

口内炎の原因の1つとして挙げられているウイルス感染の中でも猫カリシウイルスや猫白血病ウイルスの感染症には、ワクチンがあるのでワクチン接種をしましょう。特に集団飼育の場合はウイルス感染が蔓延するリスクがあるため注意が必要です。

歯周病との関連も指摘されていますので、オーラルケアによる歯周病予防をしましょう。

歯磨きをすることで口腔内を綺麗に保つことが大切です。毎日の歯磨き習慣があればお口の中を観察できて病気の早期発見にも繋がります。

猫の歯周病についてはこちら

すでに基礎疾患のある猫にはその子の状態に適したフードに加えてサプリメントを栄養補助として与え免疫の低下を防ぎましょう。

若齢の子でも症状がみられる場合があります。

気になる症状がありましたらご相談ください。

当院の口内炎の症例はこちら

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