『うちの子、最近くしゃみが多い』『鼻血が出たけど風邪かな?』『アレルギーかもしれない』——こうしたご相談で来院された際、実は歯周病が原因だったというケースが少なくありません。今回は、13歳のミニチュアダックスフンドの症例をもとに、歯周病が鼻の症状を引き起こすしくみをご説明します。
くしゃみ・鼻血の原因は風邪やアレルギーだけではありません
よくある誤解①「くしゃみや鼻血は風邪やアレルギーのせい」
犬のくしゃみや鼻血と聞くと、風邪・アレルギー・異物などを思い浮かべる飼い主さまが多いです。しかし、歯周病が鼻腔まで進行した状態(口腔鼻腔瘻)でも、まったく同じ症状が起こります。
歯周病が進行すると、上あごの犬歯の根元を支える骨(歯槽骨)が溶け、歯の根と鼻腔の間に穴が開きます。これを口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)といいます。
口腔鼻腔瘻になるとほぼすべての症例でくしゃみが見られます。さらに鼻血が加わる場合は、腫瘍や異物の可能性も否定できないため、早めの検査が必要です。
今回の症例:13歳ミニチュアダックスフンドのケース
主訴と来院のきっかけ
かかりつけの動物病院さまからご紹介いただき、当院を受診されました。
- くしゃみが続いている
- 鼻血が出ることがある
診察時の所見
診察時、上あごの犬歯には大量の歯石が付着しており、歯肉の退縮(歯茎が下がること)が目で見てわかるほど進行していました。
歯周病が鼻腔まで達し、細菌性鼻炎を起こしていると強く疑われる状態でした。鼻血も出ているため腫瘍や異物の可能性を除外するため、全身麻酔下での検査と治療を行うことになりました。
実際の治療(処置内容と所見)
麻酔下で確認したところ、上あごの犬歯は重度の口腔鼻腔瘻を起こしていました。抜歯後、鼻腔内に大量の膿が確認されたため、すべて除去して洗浄しました。
歯科レントゲン検査では腫瘍を疑う所見はありませんでした。鼻血の原因は犬歯の重度歯周病である可能性が高いと判断しました。
歯周病が進むと「歯の病気」では済まなくなります
3歳以上の犬の約80%に何らかの歯周病があるとされています(AAHA Dental Care Guidelines)。歯周病は進行するにつれ、次のような段階をたどります。
- Stage 1:歯肉炎(歯肉の発赤・腫れ)
- Stage 2:軽度歯周炎(歯槽骨の軽度吸収)
- Stage 3:中等度歯周炎(歯槽骨の25〜50%吸収)
- Stage 4:重度歯周炎(歯槽骨の50%超吸収・口腔鼻腔瘻を含む)
今回の症例はStage 4に相当します。上あごの犬歯は鼻腔に最も近い位置にあり、歯周病が進行すると口腔鼻腔瘻が起きやすい部位です。
自宅でできる3つのケアと、受診を急ぐサイン
自宅でできること
- 毎日の歯磨き:歯ブラシで歯と歯肉の境目を優しく磨く習慣をつける
- 週1回の口腔内チェック:歯肉の色(赤み・腫れ)と歯石の付着を確認する
- 食欲・口臭の変化を記録:急に口臭が強くなった・食欲が落ちた場合はメモしておく
ただし、歯石はブラッシングだけでは除去できません。歯周病の進行度はレントゲンを使った検査でしか正確に把握できないため、自宅ケアには限界があります。
早めに動物病院を受診すべきサイン
- くしゃみが数日以上続いている
- 鼻血が出ている
- 口臭が急に強くなった
- 食欲が落ちた・口を触られるのを嫌がるようになった
- 目の下・頬が腫れている
これらのサインが見られる場合、風邪やアレルギーではなく歯周病が原因の可能性があります。かかりつけ医に相談するか、歯科専門の動物病院にご連絡ください。
術後の経過
術後2週間・1ヶ月の健診では経過良好で、くしゃみと鼻血は改善しました。もし症状が続く場合はCT検査などの精密検査を検討する旨をご説明しています。
最後に
今回ご紹介した口腔鼻腔瘻は、歯周病が進行した犬に起こりやすい合併症です。当院では全身麻酔下での歯科レントゲン検査・スケーリング・抜歯・鼻腔洗浄まで一連の処置を行っています。「くしゃみや鼻血が続いているが原因がわからない」という場合も、犬と猫の歯科・口腔外科の観点からご相談いただけます。
気になる症状がございましたら、お電話またはWebフォームからお気軽にご相談ください。
参考文献
- AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats(米国動物病院協会・歯科ケアガイドライン): https://www.aaha.org/aaha-guidelines/
- AVDC Nomenclature — Oral and Dental Conditions(米国獣医歯科専門医会): https://avdc.org/
- Reiter AM, Gracis M. BSAVA Manual of Canine and Feline Dentistry and Oral Surgery, 4th ed. BSAVA; 2018.







