破折(断髄編)

症例紹介・犬
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歯が折れたことにいつ気付く?

破折に飼い主様が気付くタイミングは、

・さっきおもちゃで遊んでいたら欠けた
・おもちゃを噛んでいて嫌な音がした
・口をぶつけて歯の欠片が落ちた
・毎日歯磨きをしているのですぐに異常に気付いた

などと、受傷後すぐに気づける場合があります。

断髄ってどんな処置?

すぐ診察を受けてもらうことで神経を全て抜くのではなく一部の神経を切除して治療をする「断髄」という処置が受けられることがあります。

歯根歯髄の生活力と機能を維持させる処置になります。

歯髄露出から治療までの経過時間によって治療成功率が以下のように変わると報告されています。

・受傷48時間以内・・・88.2%

・48時間〜1週間以内・・・41.4%

・1週間以上経過・・・23.2%

つまり、受傷後すぐに治療ができれば歯の歯髄の生活力を維持した状態で歯を温存できる可能性が高いという事になります。

症例:11ヶ月齢 ゴールデンレトリーバー

今回は受傷後すぐで感染のリスクが限りなく低い歯に対しての治療方法を説明します。

破折 犬歯
破折 犬歯

石をくわえて遊んでいたところ下顎の犬歯が折れてしまったという事で来院されました。

この子は、まだ年齢的に未成熟歯であり歯髄活性が高く、レントゲンでも歯が折れている以外の異常が認められなかったため、断髄を行うことになりました。

破折 犬歯 歯科治療

まず外界に露出してしまった神経を下の写真の様にエアタービンというもので除去します。

破折 犬歯 歯科治療

正常な歯髄に到達するまで象牙質と歯髄を削り、消毒、止血をしたところの写真です。

その後、MTAセメントと言われる特殊な歯科材料を詰めていきます。

※MTAセメントとはケイ酸カルシウムを主成分とした新しい材料でカルシウムイオン徐放性があるため、露髄面にデンティンブリッジと言われる歯髄に蓋をする新しい硬組織を作ることを目的に使用されます。

破折 犬歯 歯科治療 断髄

MTAセメントをキャリアという器具を使用して拡大した歯髄腔に詰めていきます。

破折 犬歯 歯科治療 断髄

詰め終わった後、常法通りコンポジットレジンで歯冠修復を行います。

処置直後のレントゲン写真がこちらになります。

処置当日

経過観察はいつまで?

今回の治療はこれで終了です。

ちゃんと成功しているかどうかは半年後にレントゲンを撮影して判断します。

レントゲンはわかりやすい様に模式図を作成しました。

模式図 断髄 犬
破折 犬歯 歯科治療 断髄 レントゲン
6か月後

6カ月後にはデンティンブリッジが形成され、歯の成長は続き、歯髄腔も狭くなっています。

この所見を持ってまずは治療は成功ということになります。

ただ、今後もずっとこの歯が健康という保証はできません。

6ヶ月おきに少なくとも3年間は定期的なレントゲン検査での検診をが必要です。

抜歯では無く歯を温存する為には専門的な治療が必要にはなりますが、残す事も可能です。

若い子は先が長いため、可能であればこの様に破折・露髄を早期発見し治療する事ができればそれが一番だと思います。

今回は、犬の症例でご報告しましたが、当然猫も同様の処置が可能です。

基本的に、この治療は“2歳未満”で、歯が折れて“48時間未満”に治療が可能である場合に限り適応となります。

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