犬の口腔内メラノーマ(悪性黒色腫)完治症例|切除・経過を歯科専門医が解説

症例紹介・犬

『うちの犬の歯茎に黒いできものがある』『犬のメラノーマは完治できるの?』『ブログで実際の治療経過を見たい』——こうしたご相談を飼い主さまからよくいただきます。口腔内のメラノーマ(悪性黒色腫)は、犬の口腔内腫瘍のなかでも比較的多く見られる腫瘍です。今回は当院での実際の症例をもとに、診断から手術・術後1年半の経過まで詳しくご紹介します。

口腔内メラノーマは犬に多い悪性腫瘍のひとつです

犬の腫瘍発生部位は、1位が皮膚、2位がリンパ系、3位が乳腺、4位が口腔とされており、口腔内腫瘍は決して稀ではありません。そのなかでもメラノーマ(悪性黒色腫)は、犬の口腔内腫瘍全体の約30〜40%を占めるという報告があります。

黒〜茶褐色の色素を持つことが多いですが、色素のないタイプ(無色素性)もあるため、色だけで判断することはできません。早期発見・早期治療が予後に大きく影響するため、歯茎や口腔粘膜のできものは見つけたら早めに受診されることをお勧めします。

今回の症例:15歳ミニチュアダックスフンド(避妊雌)

主な症状

  • 口を痛そうにしている
  • 鼻汁・くしゃみが多い
  • 4年前に歯科治療を受けた後、自然と歯が抜けた
  • 3年前ごろから口を気にする様子がある

口腔内の所見

診察では、重度の歯周病が全体に認められました。左上顎の犬歯は口腔鼻腔瘻(口と鼻がつながってしまった状態)を起こしており、動揺している歯も多く、全抜歯が必要な状態でした。

病理検査でメラノーマと確定診断しました

全身麻酔下での歯科処置中に、右上顎にできものを発見しました。組織の一部を採取し、病理検査に提出したところ、メラノーマ(悪性黒色腫)と診断されました。

犬(ミニチュアダックスフンド)右上顎のメラノーマ:手術前の口腔内所見
右上顎に確認されたメラノーマ(手術前)
犬の口腔内メラノーマの病理検査結果レポート
病理検査レポート:メラノーマ(悪性黒色腫)と確定診断

低悪性度と診断されたため、負担の少ない切除術を計画しました

病理検査の結果、低悪性度のメラノーマと判明しました。そのため、できる限り切除範囲を最小限にしつつ、確実に腫瘍を取りきる手術方針を立てました。

手術の切除マージン

  • 軟部組織のマージン:1cm
  • 眼窩下静脈などを温存するため、吻側(前方)の粘膜下組織は0.5cmのマージンを確保
  • 上顎骨のマージン:0.5cm強
犬の右上顎メラノーマ切除術中の様子(手術前半)
切除術中の様子(1)
犬の右上顎メラノーマ切除術中の様子(手術後半)
切除術中の様子(2)
犬の右上顎メラノーマ:切除した腫瘍組織」 style=
切除した腫瘍

術後は傷の保護のため、エリザベスカラーの着用をお願いしました。

犬の右上顎メラノーマ切除後の病理検査結果:切除マージンの確認
術後の病理検査:十分なマージンで切除できていることを確認

術後の病理検査では、腫瘍が十分なマージンをもって切除できていることが確認されました。予後は良好と判断しています。

術後1年半で肺転移・再発なし、検診終了となりました

術後の経過

手術時に鼻腔側の骨を一部切除したため、術後2日目の検診では「くしゃみをすると少量の鼻血が出る」との報告がありました。しかし術後2週間の検診では、くしゃみ・鼻血・鼻汁はすべて消失していました。

切除した骨の量が少なかったため、見た目の変化もほぼなく、食事も問題なく摂れています。

犬の右上顎メラノーマ術後1か月の口腔内の様子
術後1か月検診:傷の回復は良好

術後1年半の検診では、肺への転移も口腔内の再発も確認されず、検診終了となりました。

メラノーマは長期的な経過観察が重要です

今回の症例は低悪性度のメラノーマでしたので、この期間経過観察できれば完治と判断できます。しかし、通常のメラノーマは数年後に再発や転移が起こる可能性があります。

そのため、手術後も定期的な検診を続け、他の腫瘍より長期にわたる経過観察が非常に重要です。「手術して終わり」ではなく、継続的なフォローアップが愛犬を守ることにつながります。

自宅でできる口腔内チェックの3つのポイント

早期発見のために、日頃から以下の点を確認してみてください。

  • 歯茎・口腔粘膜の色の変化:黒・茶・赤のできものや色素沈着がないか
  • 口臭・よだれの変化:急に強くなった・量が増えた場合は要注意
  • 食欲・食べ方の変化:口を気にする、片側でしか噛まないなど

これらのサインが続く場合や気になることがあれば、早めにご相談ください。なお、自宅でのチェックでは発見が難しい小さなできものもあります。定期的な口腔内検診も組み合わせることが大切です。

こんなサインがあれば早めに受診を

  • 歯茎や口の中に黒・茶色のできものがある
  • 口臭が急に強くなった
  • くしゃみ・鼻汁が続いている
  • 食欲の低下や食べ方の変化がある
  • 口を頻繁に気にしている

他のメラノーマの症例はこちらの記事もご覧ください。

最後に

今回ご紹介した口腔内メラノーマの症例のように、当院では全身麻酔下での口腔内の精密検査・腫瘍切除・長期の経過観察まで一貫して対応しています。歯周病の治療中に偶然発見されるケースも少なくなく、定期的な歯科検診が早期発見につながることがあります。

気になる症状がございましたら、お電話またはWeb予約フォームからお気軽にご相談ください。

参考文献

  • Ramos-Vara JA et al. “Oral melanocytic lesions in dogs: A clinicopathological study.” Veterinary Pathology, 2000.
  • Bergman PJ. “Canine oral melanoma.” Clinical Techniques in Small Animal Practice, 2007.
  • AVDC(American Veterinary Dental College)口腔内腫瘍に関するポジションステートメント: https://avdc.org/
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