「うちの犬が下痢しているけど元気はある、様子見していいのかな」「一度吐いただけで病院に行くべき?」「犬が吐いた、すぐ病院に連れて行くべき状態なのか判断できない」——こういったご相談は、当院に多く寄せられるお問い合わせのひとつです。下痢や嘔吐は犬にとって非常によく見られる症状です。しかし「どのくらいなら様子見でよいか」の判断は、症状の組み合わせと時間軸によって大きく変わります。この記事では、自宅でできる観察ポイントと、受診すべきサインを具体的にご説明します。
まず自宅でできる3つの観察ポイント
受診すべきかどうかを判断するために、まず以下の3点を確認してください。焦らず落ち着いて観察することが大切です。
- 元気と食欲の有無:普段どおりに動けているか、食事を食べようとするかを確認する
- 便の性状:軟便・泥状便・水様便・粘液混じりのどれか、血が混じっていないかを見る
- 嘔吐との同時発症:下痢だけか、嘔吐も伴っているかを確認する
できれば便の写真を撮っておくか、清潔な袋に少量入れて保管しておくと、受診時の診断に役立ちます。
「元気はあるけど下痢」は成犬なら24〜48時間の様子見が目安です
成犬(1歳〜7歳ごろ)で、元気・食欲がありほぼ普段どおりに過ごせている場合は、下痢単独であれば24〜48時間を目安に様子見することが一般的です。
この間に自宅でできることとして、食事量をいつもより少なめにする、消化に良いフード(茹でた鶏むね肉や白米など低脂肪・高消化性のもの)に切り替えるといった対応が挙げられます。水分はしっかり摂れているかを確認してください。
ただし3日以上続く場合は、元気があっても受診をお勧めします。腸内環境の乱れ以外に、腸炎・食物アレルギー・膵外分泌不全・炎症性腸疾患(IBD)など、精査が必要な病態が隠れている可能性があります。
絶食させるべき? 水はあげていい?
「下痢のときは絶食」とお考えの飼い主さまも多いですが、これは条件によって判断が変わります。
成犬で軽症の下痢であれば、6〜12時間程度の絶食が腸を休ませるうえで有効なことがあります。ただし水分補給は積極的に行ってください。
一方で子犬・シニア犬・基礎疾患がある犬への安易な絶食は禁物です。子犬はエネルギー蓄積が少なく、絶食が低血糖を引き起こすリスクがあります。シニア犬も体力の低下により急変しやすいため、早めに担当獣医師に相談することをお勧めします。
小腸性下痢と大腸性下痢の見分け方——自宅で判断できる4つの違い

下痢には大きく「小腸性」と「大腸性」の2種類があり、どちらかによって緊急度や対処が異なります。この分類を自宅で把握しておくと、受診時に担当獣医師への情報提供がスムーズになります。
- 小腸性下痢:便の量が多い・水様に近い・嘔吐を伴いやすい・体重減少が起こりやすい
- 大腸性下痢:1回の量は少なく頻回に出る・粘液(ゼリー状の透明〜白い物質)が混じる・いきむ(しぶり症状)がみられる・血が少量混じることがある
小腸性下痢は感染症・膵疾患・食物不耐性などが原因となりやすく、嘔吐を同時に伴う場合は早期受診が重要です。大腸性下痢は大腸炎・ストレス・寄生虫などが背景にあることが多いです。
これが出たらすぐ受診してください——「すぐ受診」のサイン一覧
以下の症状がひとつでも当てはまる場合は、様子見をせず早めにご来院ください。
- 血便・黒色便がある(鮮血便は大腸〜直腸の出血、黒色タール状便は胃や十二指腸の出血を示す可能性があり、どちらも緊急性が高い)
- 下痢と嘔吐が同時に出ている(2つの症状が重なる場合は脱水・感染症・腸閉塞など重篤な原因の可能性がある)
- ぐったりしている・ふらつく・立てない
- 腹部が明らかに膨らんでいる・嘔吐しようとするのに吐き出せない(大型犬では胃拡張捻転症候群=GDVの可能性があり、数時間で致死的になりうる緊急状態です)
- 激しい嘔吐が1〜2時間以内に3回以上続く
- 子犬(生後6ヶ月未満)・シニア犬(10歳以上)で下痢または嘔吐が出ている
- 成犬でも3日以上下痢が続いている
- 食欲・元気が明らかに低下している
大型犬の「嘔吐できないのに苦しがる」は緊急サイン
ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、グレート・デーン、ジャーマン・シェパードなどの大型犬・胸の深い犬種では、胃拡張捻転症候群(GDV)に特に注意が必要です。
GDVは胃が空気で膨らみながら捻れる緊急疾患で、腹部の膨満・嘔吐しようとするがほとんど吐き出せない・大量のよだれ・著しい不安・ぐったりした様子が特徴的なサインです。発症から数時間で致死的になりえるため、これらの組み合わせが見られたら夜間でも救急対応できる施設を受診してください。
「嘔吐」と「吐出」は別物です——緊急度が変わるため区別を
嘔吐とよく混同されるのが吐出(とすい)です。吐出は食道から未消化のまま食物が逆流する現象で、真の嘔吐(胃・腸の内容物を力んで吐き出す)とはメカニズムが異なります。
- 嘔吐:吐く直前に腹筋を使って力む・胃液や消化途中の内容物が出る・前兆として不安な様子・よだれが増える
- 吐出:ほぼ力まずに出る・未消化・ソーセージ状の塊が多い・食後まもなく起こりやすい・食道拡張症や巨大食道症の可能性
繰り返す吐出は食道の疾患が背景にあることが多く、通常の嘔吐とは原因・治療が異なります。「よく吐く犬だから」と見過ごさず、症状の様子を動画や写真で記録して受診の際にお見せいただくと診断の助けになります。
市販の下痢止め・人間用薬は与えないでください
市販の人間用下痢止め(ロペラミドを含む製品など)や吐き気止めを犬に独断で与えることは、症状を一時的に隠してしまい診断を遅らせるリスクがあります。また犬に安全でない成分が含まれているケースもあるため、担当獣医師の指示なく投与するのはお勧めしません。
整腸剤(プロバイオティクス)については、犬用として処方・推奨されたものを使用するのであれば補助的な役割が期待できますが、それだけで根本的な原因に対処することは難しい場合があります。
夜間・休日に症状が出たときの判断フロー
かかりつけが閉院している時間帯に症状が出ると、特に判断に迷いやすいものです。以下を目安にしてください。
- 翌朝まで様子見を検討してよいケース:成犬・元気と食欲がある・下痢単独(嘔吐なし)・血便なし・1〜2回のみ
- 夜間でもすぐ救急受診すべきケース:ぐったりしている・腹部膨満+嘔吐できない(GDV疑い)・激しい嘔吐が続く・血便または黒色便・子犬でぐったりしている・けいれんを伴う
当院は年中無休で診療しており、急な体調変化にも対応できます。「夜間は…」と我慢せず、まずはお電話でご相談ください。
受診時に伝えると診断に役立つ情報
症状のご相談や来院の際は、以下の情報を事前にまとめていただけると、担当獣医師がより正確な状況把握をするうえで助かります。
- いつから症状が始まったか(日時)
- 下痢の回数・便の性状(軟便か水様か・血や粘液の有無)
- 嘔吐の有無・嘔吐の回数・吐いた内容物の様子
- 普段与えているフードの種類・最近変えたかどうか
- おやつ・人間の食べ物・異物を食べた可能性の有無
- 元気・食欲・飲水量の変化
- ワクチン接種歴・フィラリア・ノミダニ予防の状況
可能であれば新鮮な便を清潔な袋に少量入れてご持参ください。便の検査(寄生虫・細菌・ウイルスの確認)に用いることができます。
繰り返す下痢・嘔吐は慢性疾患のサインかもしれません
月に複数回、または数週間以上にわたって下痢・嘔吐を繰り返す場合は、一時的な胃腸炎ではなく慢性疾患の可能性があります。
背景として考えられる主な疾患には以下のものがあります。
- 炎症性腸疾患(IBD):腸の慢性的な炎症。体重減少・タンパク漏出性腸症を伴うことがある
- 膵外分泌不全(EPI):消化酵素の産生不足。大量の軟便・体重減少・食欲増加が特徴的
- 腸リンパ管拡張症:腸からタンパク質が漏れ出す疾患。浮腫・低アルブミン血症を伴う
- 副腎皮質機能低下症(アジソン病):ホルモン疾患で下痢・嘔吐・虚脱発作が繰り返す。若いラブラドールなどに多い
- 食物アレルギー・食物不耐性:特定の食材に対する過敏反応
これらは血液検査・便検査・腹部超音波検査・場合によっては消化管内視鏡検査などで精査します。「また下痢か」と様子見を続けるより、早めに原因を調べることが長期的なケアの近道です。
最後に
今回ご紹介した下痢・嘔吐の判断ポイントについて、当院では初診時に便の検査(寄生虫・細菌の簡易チェック)・腹部触診・全身の状態確認を行い、必要に応じて血液検査・腹部超音波検査を組み合わせて原因を調べています。「元気はあるけどここ数日下痢が続いている」「一度吐いた後からなんとなく元気がない」など、気になる症状がございましたら、お電話または Web 予約フォームからお気軽にご相談ください。当院は年中無休で診療しています。
参考文献
- AAHA Canine Life Stage Guidelines(米国動物病院協会・犬のライフステージガイドライン)
- Washabau RJ, Day MJ. Canine and Feline Gastroenterology. Saunders Elsevier, 2013.
- Tams TR, Rawlings CA. Small Animal Endoscopy. 3rd ed. Elsevier Mosby, 2011.
- German AJ, et al. “Gastrointestinal tract.” In: Ettinger SJ, Feldman EC (eds). Textbook of Veterinary Internal Medicine. 8th ed. Elsevier, 2017.

