「犬の去勢の時期はいつがいい?」「猫の避妊手術の時期を逃したかも」「犬の避妊にメリット・デメリットはある?」——そんなご不安やご疑問を持つ飼い主さまから、日々多くのご相談をいただきます。手術を受けさせるかどうか、いつ受けさせるか、体への負担はどのくらいか。大切な家族のことだからこそ、正確な情報をもとに考えたいですよね。
この記事では、犬と猫の去勢・避妊手術について、手術時期の目安・犬種・体格による違い・防げる病気とリスク・術後の体重管理まで、獣医師の視点でていねいにご説明します。「する」「しない」どちらの選択も、まずは正確な情報を持った上でかかりつけの獣医師と相談して決めることをおすすめします。
去勢・避妊手術で防げる病気は具体的に何ですか?
手術の意義を知るために、まず「しなかった場合に起こりうる病気」を確認しておきましょう。
メス犬・メス猫で防げる病気
- 子宮蓄膿症:子宮に膿が溜まる病気で、放置すると敗血症・死亡に至ることがあります。避妊手術をした場合は子宮と卵巣を摘出するため、原則として発症しません。
- 乳腺腫瘍:メス犬の乳腺腫瘍の発生率は、初回発情前の手術で約0.5%、1回目発情後で約8%、2回目発情後では約26%と報告されており、早期手術の予防効果が高いことが知られています。猫の乳腺腫瘍132例を調べた報告では、悪性と良性の比はおよそ9対1でした。
- 卵巣・子宮の腫瘍:卵巣と子宮を摘出することで、これらの腫瘍リスクがなくなります。
オス犬・オス猫で防げる病気
- 精巣腫瘍:精巣を摘出することで発症しません。
- 前立腺肥大:去勢手術で男性ホルモンの分泌を抑えることで、進行を防げます。
- 肛門周囲腺腫・会陰ヘルニア:どちらも男性ホルモンと関連があるため、去勢により発症リスクが下がります。
行動面の変化
オス犬・オス猫のマーキング(スプレー)行動やマウンティングは、性成熟前に手術をおこなうとホルモン分泌が抑えられ、改善することが多いです。ただし、すでに習慣化した行動は手術後も残る場合があります。性格そのものが大きく変わることはほぼありません。
「しない選択」のリスクも公平に知っておきましょう
手術のメリットだけでなく、「しなかった場合に管理が必要になること」も正直にお伝えします。
- 子宮蓄膿症・乳腺腫瘍・前立腺肥大などの発症リスクが生涯残ります(定期的な健康診断で早期発見に努める必要があります)。
- 望まない繁殖の防止には、散歩の管理や生活環境の工夫が継続して必要になります。
- 発情期のストレス(鳴き声・食欲低下・落ち着きのなさ)が繰り返し起こります。特に猫は発情周期が短く、繰り返しの発情は体への負担にもなります。
「しない」と決めた場合でも、定期的な健康診断で子宮・乳腺・前立腺の状態を確認し続けることが大切です。
手術の時期は「生後6ヶ月」がすべてではありません

よく「生後6ヶ月が目安」と言われますが、これは特に小型犬・中型犬・猫に当てはまりやすい目安です。犬は体格・犬種・性別によって、最適な時期が異なる可能性があることが、近年の研究で示唆されています。
猫の場合
メス猫は生後6ヶ月未満の手術が乳腺腫瘍の予防という観点から特に推奨されています。オス猫は、スプレー(マーキング)行動が始まる前——一般的に生後5〜6ヶ月ごろ——の手術が行動改善の面でも効果的とされています。
小型犬・中型犬の場合
初回発情前の生後6ヶ月前後が目安とされることが多いです。乳腺腫瘍の予防効果を最大限得るには、初回発情前の手術がもっとも有効とされています。
大型犬・超大型犬の場合(重要)
ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなどの大型〜超大型犬では、早期(生後6ヶ月以前)の去勢・避妊手術が前十字靭帯断裂や股関節形成不全などの骨関節疾患の発生率を高める可能性が、複数の研究で示唆されています。これは、性ホルモンが骨や関節の成長・成熟に関わるためと考えられています。
こうした背景から、大型犬では1歳前後まで待つことを検討するケースも増えてきました。一方で、乳腺腫瘍予防の観点からは早期手術のメリットもあります。大型犬の手術時期は特に個別の判断が重要です。かかりつけ獣医師と犬種・体格・生活環境をもとに相談することをおすすめします。
手術を受ける前に知っておきたいこと
術前検査の重要性
全身麻酔を安全におこなうために、術前の血液検査・身体検査が必要です。肝臓・腎臓・血液の状態を確認し、麻酔リスクを事前に評価します。若くて健康な犬猫でも、術前検査は省略しない方が安心です。
当院では、手術前に必ず検査と状態の確認をおこなった上で手術を進めています。
麻酔のリスクについて
全身麻酔には一定のリスクが伴います。ただし、健康状態の良い若い犬猫では合併症の発生は稀とされており、術前評価・麻酔モニタリングにより安全性をできる限り高めることができます。高齢や持病のある子は、リスクと手術のメリットを比較しながら、より慎重に判断する必要があります。
術後に飼い主さまがご自宅でできるケア

傷口の保護と安静
- 手術後は傷口を舐めさせないよう、エリザベスカラーを着用させてください。
- 術後1〜2週間は激しい運動を避け、安静を保ちましょう。
- 傷口が赤くなる・腫れる・分泌物が出るなどの変化があれば、すぐにご相談ください。
術後の体重管理(重要・競合が手薄な点)
手術後は基礎代謝が低下し、食欲が増える一方で活動量が減る傾向があります。このため、術後に体重が増えやすくなります。
以下のポイントを意識してください。
- フードの切り替え:術後1〜2ヶ月を目安に、去勢・避妊後用(カロリーを抑えたもの)のフードへ徐々に切り替える。
- 給与量の見直し:パッケージに記載された量をそのまま使わず、体重の変化を見ながら調整する。目安として手術前より10〜20%程度少なめから始めることが多いです。
- 定期的な体重測定:手術後1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月で体重を測り、理想体重を維持できているか確認しましょう。
- 適度な運動の維持:傷が癒えたら、毎日の散歩や遊びで活動量をキープしてください。
猫の場合は術後に尿路結石のリスクにも注意が必要です。水分を多く摂れるよう、ウェットフードを取り入れたり、複数箇所に水飲み場を用意したりすることもおすすめです。
動物病院に相談したい・受診の目安

手術の時期や必要性について「自分で判断しきれない」と感じたら、それが受診のサインです。特に以下のような場合は、早めにご相談ください。
- 大型犬・超大型犬で、手術時期をいつにすべか迷っている
- 初回発情がすでに来てしまった、または発情中である
- 術後に傷口の腫れ・化膿・発熱・食欲不振が見られる
- 手術後3〜6ヶ月で体重が急増している
- 高齢や持病があり、麻酔リスクが気になる
最後に
去勢・避妊手術は、子宮蓄膿症・乳腺腫瘍・精巣腫瘍など将来の病気を防ぐ大切な選択肢のひとつです。一方で、特に大型犬では犬種・体格・性別に応じた時期の個別判断が重要で、「一律に生後6ヶ月」が最善とは限りません。手術の時期や必要性に迷われたら、ぜひ当院にご相談ください。
当院では、術前の血液検査・身体検査をしっかりおこなった上で手術に臨み、術後の体重管理・食事指導まで担当獣医師がサポートします。「うちの子に合った時期を相談したい」「手術の内容をもっと詳しく聞きたい」というご要望もお気軽にどうぞ。
参考文献
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