「愛犬がソファから落ちた後、足をひきずっている」「抱っこ中に滑り落ちて、急に鳴き声を上げた」——犬の骨折は、決して珍しい事故ではありません。特にトイプードル・チワワ・ヨークシャーテリアのような超小型犬では、ちょっとした落下でも骨が折れてしまうことがあります。このページでは、骨折が疑われるときに飼い主さまが「今夜どうすればよいか」を判断できるよう、自宅での確認ポイント・してはいけないNG行動・受診の目安を整理してお伝えします。
犬の骨折は若い犬や体重の軽い小型犬に多く起こります

犬の骨折で最も発生が多い部位は橈尺骨(前腕部)です。発症は若い年齢の小型〜超小型犬に集中しやすいことが報告されています。骨が細く、皮下脂肪も少ないため、着地の衝撃を吸収しにくい構造になっています。イタリアン・グレーハウンドは脚が長く細いため、骨折しやすい犬種です。
骨折の主な原因には以下があります。
- ソファ・ベッドからの飛び降り・落下
- 抱っこ中の転落
- 家族に踏まれるなどの外力
- 交通事故
- 軽微な外力での病的骨折(骨腫瘍が隠れている場合)
最後の「病的骨折」は、わずかな衝撃で骨が折れた場合に疑う必要があります。骨に腫瘍(骨肉腫など)があると、通常では折れないような力でも骨折が起きることがあるためです。「ほとんどぶつけていないのに骨折した」と感じたときは、担当獣医師に相談することをお勧めします。
自宅でできる3つの確認ポイント
骨折かどうかを自宅で確定することはできませんが、以下のサインが重なるほど骨折の可能性が高まります。
- 患肢を地面につけない・引きずる:完全に体重をかけられない状態が典型的です
- 患部に触れると痛がる・噛もうとする:腫れ・熱感が伴うことも多いです
- 肢の角度・形が明らかにおかしい:見た目に変形がある場合は重度の骨折を疑います
これらのサインが1つ以上あれば、速やかに動物病院を受診することをお勧めします。
骨折かどうかはレントゲン(X線)検査で確認します。骨折の部位・ずれの程度・骨片の数などを画像で評価したうえで、治療方針を決めていきます。
やってはいけないNG応急処置が3つあります
善意からとってしまいがちな行動が、症状を悪化させることがあります。以下の3つは必ず避けてください。
- 患部を揉む・押す・自分で整復しようとする:血管・神経を傷つけ、痛みと損傷を拡大させます
- 自己判断でギプスや固定を試みる:不適切な固定は変形治癒(ゆがんだ形でくっつく)の原因になります
- 「様子を見る」を長引かせる:骨折を放置すると、変形治癒・慢性疼痛・感染のリスクが高まります。数時間以内の受診が理想的です
自宅でできる最善の対応は、患肢をできるだけ動かさないよう体を支えながら、速やかに病院へ連れていくことです。移動中はキャリーバッグやバスタオルで体を包んで揺れを最小限にしてください。
今すぐ受診すべきサインと、経過観察でよい目安

今すぐ受診を
- 患肢に一切体重をかけられない
- 骨が皮膚から突き出ている(開放骨折)
- 出血・皮膚の損傷がある
- ぐったりしている・意識が混濁している
- 交通事故など強い外力があった
- 顎・胸・骨盤など体幹部の骨折が疑われる
翌朝でも対応可能なケース(ただし早めに)
- 患肢をかばいながらも歩けている
- 食欲・意識はある
- 患部の腫れはあるが出血はない
「翌朝でよい」と感じる状況でも、骨折が疑われる場合は24時間以内の診察をお勧めします。骨折の悪化は比較的速く進むことがあるためです。
治療は保存療法か手術かを状態で判断します

骨折の治療は大きく2種類に分かれます。
保存療法(ギプス・副木固定)
骨のずれが小さく、整形学的に正確な整復が可能な場合に選択肢となります。ただし、不適切な固定はかえって変形治癒を招くため、専門的な判断が必要です。
外科手術(ピン・プレート・スクリュー固定)
骨のずれが大きい・骨片が複数ある・超小型犬で骨が細いケースでは手術が適応となることが多いです。特にプレート固定は固定力が高く、早期のリハビリが可能で、癒合不全のリスクが比較的低い傾向があるとされています。
一般的な回復期間は2〜3ヶ月が目安です。若齢犬は短めの傾向があり、シニア犬や大型犬では長くなりやすいことが知られています。
超小型犬・シニア犬・子犬は特有のリスクがあります
超小型犬(体重5kg以下)の注意点
トイプードル・パピヨンなどでは、骨折後に骨癒合不全(骨がうまくくっつかない状態)が起こりやすいことが報告されています。治療後も定期的なレントゲン検査で癒合の進行を確認することが重要です。癒合不全が起きた場合は再手術が必要になることがあります。
シニア犬(7歳以上)の注意点
加齢とともに骨密度が低下し、若い犬より骨折が起きやすくなります。回復にも時間がかかる傾向があり、術後の安静管理がより重要になります。また、全身麻酔のリスク評価のために術前の血液検査・心臓評価が必要です。
子犬(成長板骨折)の注意点
骨の成長が完了していない子犬では、骨の端にある骨端線(成長板)と呼ばれる部分が特に脆弱です。この部位が損傷すると、成長の左右差や変形が残ることがあるため、若齢犬の骨折は特に慎重な対応が求められます。
顎骨骨折の治療について
当院では、超小型犬の顎骨骨折(下顎骨骨折)に対して、歯科専門の設備と技術を活かした治療を行っています。
小型犬では、重度の歯周病によって下あごの骨が溶けて弱くなり、ちょっとした力で折れてしまうことがあります。「これくらいの衝撃で?」と感じるような状況での骨折は、歯周病による骨の脆弱化が背景にある場合があります。
顎骨骨折の治療では、歯科用レントゲン(全身麻酔下)による詳細な画像評価が骨折部位の把握に役立ちます。歯周病が骨折部位の近くに存在する場合はその状態も確認しながら治療方針を検討します。
以下のような様子が見られる場合は、すぐに受診してください。
- 急にごはんが食べられなくなった
- あご先が下がって見える・口がきちんと閉じていない
詳しくは担当獣医師にご相談ください。
栄養補給は「総合栄養食で十分」が基本です
「骨折したのでカルシウムを多く与えたい」と考える飼い主さまも多いですが、カルシウムの過剰摂取は骨のバランスを崩す可能性があり、一般的には推奨されません。総合栄養食として表示されているドッグフードを適切な量与えていれば、骨の回復に必要な栄養素は基本的に満たされます。サプリメントを追加する場合は担当獣医師に相談してから判断してください。
骨折を予防するために今日から始められること
特に超小型犬を飼う飼い主さまは、以下の環境整備が骨折予防に有効です。
- 滑り止めマット・フロアコーティング:フローリングでの転倒を防ぎます
- ペット用スロープ・階段の設置:ソファ・ベッドからの飛び降りを減らします
- 抱っこ時の注意:両手でしっかり支え、高さのある場所での抱っこは避けます
- 子ども・複数ペットとの接触管理:踏まれる・激しい遊びでの衝突事故を防ぎます
なお、7歳を過ぎたシニア犬では、骨密度の低下に加えて口腔内の歯周病が全身の炎症や体力低下につながることも知られています。骨折リスクが高まるシニア期に入る前に、歯周病の状態を確認しておくことも、全身管理の一環として意義があります。
最後に
犬の骨折は、原因・部位・犬種・年齢によって対応が大きく異なります。特に超小型犬の骨癒合不全や、腫瘍が背景にある病的骨折など、見落としやすいリスクがあることも知っておいていただけると安心です。当院では、口腔外科・顎骨骨折の専門的な診療に加え、担当獣医師が全身状態を踏まえた治療方針をご提案しています。「骨折かもしれない」と感じたとき、あるいは治療後の経過が気になるとき、お気軽にご相談ください。
気になる症状がございましたら、お電話または Web 予約フォームからご連絡ください。






